sandasatoyamacamのブログ

関西学院大学 総合政策 佐山浩ゼミ(研究室)

台湾留学記 No.7

こんにちは! 台湾留学中の櫻井晴菜です(^^)

現在、台湾では政府が中国との貿易協定を締結したことに対し非常に大きな学生運動が起こっています。 日本のメディアがどのように報道しているのかはわかりませんが、 心配性な母親から一切連絡が来ないことを見ると、あまり積極的に報道されていないのではないかと思います。 一方台湾国内ではこの学生運動について連日ニュースで取り上げています。 その現場に居るということを除いて客観的に見ても、この学生運動は数年後歴史の教科書に掲載されるレベルの出来事だと感じます。 今回は、今起こっている「318学生運動」についての概略説明と、私なりに考えたことをまとめたいと思います。 将来の日本の未来を担う学生、特に総合政策学部の学生にはこの事件についてきちんと理解してほしいです。

まず、この事件の発端となったのは昨年6月に中国と台湾の間で調停された「サービス貿易協定」でした。 この貿易協定は、金融、広告、印刷、通信、旅行、卸売、小売、運輸など幅広い範囲のサービス業界について、 表向きでは中国から台湾に、またその逆で台湾から中国への企業の進出を進め お互いにビジネスチャンスを広げて成長しましょうというものですが、実際はいくつか問題があります。 ここで、この貿易協定について言われている問題を整理してみます。 1つ目に、台湾側に不利な条件であること。 あるサービス分野では、台湾は中国に対して全面的に市場を開放するのにも関わらず、 中国は一部しか市場を開放しないといった不平等な条件があります。 2つ目に、台湾で多くの失業者や倒産する会社が生まれる可能性があるということ。 詳しいことは経済学の知識が必要なので簡単に説明しますが、 中国には低賃金労働者が多く、そういった労働者が台湾に移入すると、台湾での労働者の賃金も下がってしまうだけでなく、 多くの若者は就職機会を中国人に奪われてしまいまい、結果的に台湾人の職が失われるという懸念があります。 また、台湾の多くは中小企業なので、中国の低価格な商品に太刀打ちできず倒産してしまう可能性があります。 3つ目に、中国に台湾がコントロールされてしまう可能性があること。 今回の貿易協定には、通信や広告、印刷業なども含まれているので、中国が台湾のメディアを牛耳ることが容易になります。 また、この協定で以前から進められてきた中国人の台湾移住計画がさらに進むだろうと言われています。 台湾の人々は、第二次世界大戦後、蒋介石が中国人を引き連れ行った恐怖政治が再び行われることを恐れています。 他にもこの貿易協定について言われていることはありますが、 なにせ台湾国内に居るので、どうしても台湾のデメリットを主張した偏った意見も目立ちます。 この貿易協定について正しく説明するのは難しいのでこれくらいにしておきますが、 もちろん、一部の台湾人(大企業の社長など)はこの協定で利益を受けるということも理解しなくてはなりません。

今回学生運動が起こったのはこの貿易協定の内容自体に対してだけではなく、政府(国民党、馬総統)の非民主的な対応にもあります。 6月に協定が調停された際にも、馬総統が独断で内密に行ったために台湾国内からは批判の声が多く上がり その後政府は国民と対話する上で一か条ずつ議論して決めると約束しました。 しかし、3月17日の国会では時間切れを理由にこの協定を強制採決しました。 そして18日の夜、学生たちが立法院(日本で言う国会)とその周辺を占拠するという事件が起こりました。 学生たちは当初21日の金曜日まで国会占拠を続ける予定でしたが、求めている政府からの対応がなかったため今でもなお続けています。 23日には馬総統が国会に赴きましたが、この協定は台湾の経済発展を考えた上で必要であることを再度主張し、学生に対して撤退を呼びかけたのみで対話は行われませんでした。 これを受け、学生達は行政院(日本で言う内閣)をも占拠し、運動はさらに激化しました。 そして24日の審議で協定の一時撤回が決まりましたが、そこには国民党の議員は参加しませんでした。 学生達はまだこの運動を辞めるつもりはなく、いつまで続くかわからない状態です。 日本のジャーナリストの中には、貿易協定の中身がどうこうはさて置いても、 この民主主義から逸脱した調停の手続きは正当ではないという見方をしている人もいます。 完全にこの協定が撤回されるかどうかはわかりませんが、少なくとも改めて話し合われるでしょう。

ここからは、私が思ったことを述べたいと思います。 私は、22日の土曜日に立法院周辺を訪れ、運動の様子を見てきました。 想像していたような激しい反対運動ではなく、とても平和的だと第一印象で感じました。 確かに18日に立法院、行政院に突入したのは多少荒っぽい方法でしたが、 その後は主に座り込みやスピーチを行い、決して暴力で反対意思を訴えようとはしませんでした。 さらに、飲食料や毛布の配給、医療処置ブースや仮設トイレの設置、ごみの収集と分別、 混乱を招かないように周辺地域の一般市民の誘導などが、すべてボランティアで運営されていました。 私はこの運動を見て、台湾の学生の熱意と行動力には本当に尊敬しました。 これまでの歴史で、政府に背かったたくさんの人々が処刑されてきました。 今学生運動を起こしている人々はそういった危険があるにも関わらず、愛する台湾の未来を守るために意を決して政府に反対しています。 確かに国会を占拠するのは決して良いことではありませんが、 日本にはここまでして自分たちの意志を訴えようとする学生は居るのでしょうか? また、それができる環境が日本にはあるのでしょうか?

もう一つ考えたことは、メディアのあり方です。 始めに書いたように、日本国内でこの事件について正確に報道されていないのではないかと思います。 まず考えられる理由は政治的な問題です。 日本と中国の間で「日中記者交換協定」という報道に関わる決まりがあり、 (国交が正常化した時に破棄されましたが名前が変わって同じような内容のことが今でも続けられています) 中国側に不利な内容は日本で報道するのが難しいので、このような事件はあまり大きく報道できず、ひどい場合は事実が歪められて報道されることがあります。 確かに、今後の日中関係をさらに悪化させないためには、この事件を大きく報道しない方がいいでしょう。 2つ目に考えられるのは、メディアからすると今回の事件はあまり面白くないからだと思います。 市民が警官と乱闘しているような過激な写真は視聴者の注目が得られますが、 今回の事件は非常に平和的で、学生たちが国会に突入した後は本当にただ居座っているだけなので、 面白い画が撮れないから報道しないのかもしれません。 また、ネットで見た日本のニュースでは、「学生が占拠中の国会で大小便をしている」 「座り込みに参加しながらカップルがキス写真をtwitterに挙げている」などと書かれていました。 実際は、国会内の水道が止められていてトイレが使えない状態があったそうですし、 一部の学校では学生運動に参加しているところを写真に撮ってSNSに挙げると出席点に代えてくれるそうです。 確かにニュースで報道されていることは事実かもしれませんが、報道されていることだけがすべてではありません。 今回の事件に限らず様々なメディアが様々に報道していますが、すべてを鵜呑みにして欲しくないと思います。

大変長く、稚拙な文章になってしまい申し訳ありません。 この事件は台湾の歴史や政治、経済状況などすべてが複雑に絡み合った問題で、 私の未熟な知識では上手く説明することが出来ませんでしたが、 少しでも多くの人にこのことを知ってほしいと思って書きました。 まだ学生運動は続いていますし、日々状況が変わっており、今後どのような展開になるのか分かりません。 私は日本人という立場でこの運動に対して反対も賛成もしませんが、 今日は日中30度を超える夏日ですし、明日からは雨の予報なので、 運動を続けている学生や市民の方々に、体には気を付けていただきたいです。

再見!